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作曲家 綿引浩太郎のブログ

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小説『そして、警官は奔る』

先ほど読み終えた…今回は思いのほか時間をかけてしまった。
かの作家の作品は 最近の長編小説とよばれる具合の二倍近い700ページ近い文章量というだけでなく、内容が濃いのである。
刑事小説にありがちな殺人事件だけを追うのではなく、今作でも 外国人の不法滞在問題や経済大国という言葉の裏側にある日本の実態を描いた描写や内容は 実に衝撃的であり 目を背けたい残酷さがあり 吐き気すら込み上げるほど嫌悪感を感じるものさえもあるのだが、私にも現実にありえる内容でもあることも頭では分かり 日常を生きているだけでは見えない日本社会の姿が見えてきて、作者の現実観察眼には感嘆させられるほかない。また 女性作者であるせいか主人公2人の男が『男が描く男』ではないのがなかなか興味深い。やはり男性から見た男性像と女性から見た男性像は違うのだと思わされる。しかし 作者がわざと描写表現を取捨選択している可能性もあるが…。
主人公2人が いかにもなぐらいに個性を強く描かれているせいか 一変性しかなく人間性をあまり感じず感情移入しづらい面も少しある。どんな人間にも沢山の感覚、沢山の感情があり その変化の連続が人に輝きを与えていると私は思っているせいだろうか。まあ『人の基本的な部分は変わらない』ともいうが、それはまた別の話か。
少しけちをつけてしまったが、『自分はこうありたい』という意志や信念を強く感じさせる主人公達は間違いなく魅力ある人間像であり この小説の基本構造を大きく支えているのは確かである。

ラストの『1日たりとて同じことの繰り返しではなく…』に始まる最後の数行の文章が、現代社会に生き 忙しい1日の始まりに微かな希望を感じさせる不思議な力があって素晴らしい作品だと思う。読了後に感じる爽快感はなんともいえない。

「同じような事の繰り返しばかりの日々、答えをみつけてもまた同じような悩みに戻ってくる自分、慣れて飽きて変わりばえのない日常、…」 なんて言葉ばかりが言われがちだけれど、そんなものわかった気になっているだけだ。毎日 世界も人も同じようで少しずつ違っている。自らがこうありたいという意志を持ち続ける限り、昨日と同じようで少し違う魅力的な時間が流れていくに違いない。1日の終わりには「明日は良い日かもしれない」と、 1日の始まりには「今日は良い日かもしれない」と思っていたい・・・。
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